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 事後ネタ。



 朝、目が覚めると、自分の部屋ではなかった。
「……な、に?」
 そもそもソーマには、ベッドで寝る習慣は無い。ベッドはすでに使っていない古い神機が占領しているし、そうでなくてもベッドで寝れば眠りが深くなり、いざと言う時に行動が遅れかねない。だから睡眠はソファで取るのが常なのだが…。
 今は、明らかにベッドで横になっている。感触でそれぐらいはわかる。そして、鼻腔をくすぐる独特のニオイ…。
 良い匂いとは言わないが、妙に胸にしみるこのニオイは。
「リンドウ、の」
 あの男に染み付いた、煙草のニオイ。
 そうと理解した瞬間、ソーマはガバっと身を起こし…すぐにベッドへと突っ伏した。
 リンドウの、ベッドに寝ているらしいのは、まぁいい。イヤ全然良くはないが、それよりも問題がある。
 なぜ自分は一切服を身に着けておらず、更にあらぬ所から何かがどろりと漏れてきたようなのだが…それは何だ?
 昨夜の事を思い出そうとするが、こんな状況に直結するような記憶は生憎出てこない。
 昨夜はリンドウに呼ばれて彼の部屋に行き、ビールを出されて好きではなかったが口はつけた。…そこから先の、記憶が無い。
 前から、リンドウと酒を飲むと眠くなるらしく、意識が飛ぶ事は理解していた。酔ったのだと言われた事も何度かある。だが他者と飲んだ時や一人で飲んだ時で酔ったり眠ってしまった事など無かったから、信じては居なかった。
 その結果が、これなのだろうか。
 かちゃりと、他人より出来の良い耳が扉を開く音を捕らえた。
「んー起きたのか、ソーマ」
 更に今は、一番聞きたくは無い声も。
 一瞬寝たふりをする事も考えたが、この男相手にはきかないだろう。そもそも自分は寝たふりのやり方もわからない。
 そっと気をつけて身を起こすが、更に体内の奥から流れ出てきた感触に眉を寄せる。リンドウはそのしかめっ面が何に起因しているのかわかったらしく、苦笑しながら近づいてきた。
「悪いな。ある程度はかき出したんだが、奥の方は届かなかったみたいだ」
 今貰ってきたらしい食事の乗ったトレイを二つ棚に置き、そのままソーマの居るベッドへ腰掛ける。伸ばされた手に身を引きかけるが、あっさり捕らえられて額へ唇を押し当てられた。
「おはよう」
 思考は凍りついたけれど、体はとっさに行動に出た。鍛えた両腕を前に突き出す…つまる所、抱き寄せようとしていたリンドウを突き飛ばすと言う行動を。
「うぉっ!何すんだ、いきなり」
 焦ったような声とは裏腹に、あっさり止められた両手。実力の違いを見せ付けられるようで面白くないが、今の状況にそれは関係ない。
「何すんだは、こっちの台詞だ!」
 感情的になりすぎて、らしくなく声が震えたのが屈辱的だ。リンドウはそんなソーマの言葉と声に目を瞬かせ、あーと間の抜けた声を上げた。
「もしかして…まさか、考えたくないんだけどさ。覚えてないのか?お前」
「何を…」
「俺とお前が、どうして『こう』なったのか、を」
 言葉と共に頬を撫でられ、ぞわりと駆け上ってくる感覚が嫌悪ではない事を…ソーマはわかった。だが、それは、許されざる罪に直結する揺らぎ。
「もしかして、とは思ったけどさぁ…」
 困ったようにリンドウは笑う。
「お前さんから、誘ってきたのになぁ」
 ああ、やはり、と。ソーマは絶望と共に思った。
 酔うと言う周りの言葉を信じず、己の感情を封じたつもりで目を逸らし、リンドウの優しさに甘え続けた結果が、これだ。
 ずっと…数年前から、許されない想いを、抱いていた。世界で唯一、優しさと温もりをソーマにくれた存在。男だとか女だとか、そんな所を超えて恋をした。自覚した時にはすぐに、この想いは罪だと封じたのに。
 酔った勢いで、告白でもしたのか…強引に迫ったか。どちらにせよ彼の優しさに付け込んだ事は、確かだろう。
 拳を握り、ゆっくりと息を吐く。己を殴り倒したい気分だ。
「生憎、昨夜の事を俺は覚えていない」
 頬に触れたリンドウの手を振り払う。今はそんな残酷な優しさなんて、欲しくは無かった。
 視線をめぐらせ己の服を探せば、しっかり畳まれてソファに置かれているのが見えた。酔ったとはいえ自分がするとも思えず、改めてマメな男だと思う。この男の部屋はいつも、汚れていた事がない。
 今度こそ漏れで無いように気をつけながらベッドを降りようとすれば、再び手を伸ばされた。
「おい、まだ立つのは無理だろ。昨夜あんだけヤったんだ」
「あんた……俺の回復力は知ってるだろうが」
 そう、おそらく中に残されてさえ居なければ、気付かなかったろう。そのぐらい痛みもダメージもない。…リンドウが、上手かっただけかも知れないが。
「……それはそれで複雑なんだが。って、おい、だからどこに行くつもりだ」
 手を振り払い、ベッドを出てソファへ向かう。途中やはり垂れて来たのに眉を寄せ、ティッシュを拝借して拭い取るとリンドウが笑いを含んだ声をかけて来た。
「ソーマ。そんな格好でそんな事されると、目の毒なんだけど?」
「毒だと思うなら見るな」
「そんな可愛くない事言うか。昨夜はあんなに可愛かったのに」
 そんな軽口に、ソーマはぎりっと唇を噛む。
「忘れろ。どうせ俺も覚えちゃいない」
 思った以上に冷たい声が出た事を、リンドウの息を呑む音で自覚する。
 だが、今更出た言葉は取り消せないし、取り消す意味も無い。それが現実だったし、何より…リンドウに、責任を感じて欲しくはなかった。
 のろのろと服を取り、身に着けていく。ズボンを履き終えシャツに手を伸ばした時、不意に後ろから抱きしめられた。
 ソーマに気配を感じさせずにこんな事が出来るのは、アナグラに一人しかいない。それ以前にこの場にソーマ以外一人しか居ないのだから考えるまでも無いだろう。
「っ、離せ」
「嫌だ」
「リンドウ!」
 怒りを込めて強く呼べば、彼は対抗するように腕の力を更に込めてきた。
「駄目だ、離さない」
「……」
 彼の腕が触れている場所が、酷く熱く感じる。シクシクと胸がきしむ。
「離してくれ…頼む」
「嫌だって言ってるだろ。…お前さ、何か勘違いしてない?」
「別に、してない」
 勘違いなど、する余地も無い。
 目の前にあるのは現実だけだ。
「いや、してるだろ。あのさ、俺は多分お前が思ってるほど、お優しい人間じゃない」
 リンドウの言いたい事がわからずに、ソーマは口を閉じた。
「俺はさ、惚れてない男抱ける程、自己犠牲精神強くねぇよ」
「っ、だけど現に、お前は昨夜俺を……」
「だーから、やっぱり誤解してんじゃねぇか」
 言われて、考えて、思い至る。
「お前じゃ無かった、のか?お…っ!!!」
 俺を抱いた相手、と言う前に、首筋に噛み付かれて飛び上がった。
「何でそっちに行くんだ。怒るぞ」
 だって、他にないではないか。そう思いながら肩越しにリンドウを見れば、本気で困りきった顔をしたリンドウにキスをされた。
「俺だよ。昨夜お前を抱いたのは間違いなく俺。惚れてるからお前に好きだって言われて舞い上がって、キスしたら縋られて理性の抑えが効かなくなった」
 体を反転され、向き合う形で再び抱きしめられて。
「好きだ、ソーマ。愛してる」
 言われた言葉が頭に届かず、呆然としているソーマの額にリンドウは額を合わせる。
「昨夜あれだけ何十回も言ったのに、覚えてないなんて反則過ぎるだろう、お前は」
 知るかと言おうとした口は再びリンドウに奪われ、揺らぐ思考では考えもまとまらず、震える手は彼を突き放す事も出来ず。

 仕方なくその背に回した手に、彼が笑った気配を唇越しに感じた。



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プロフィール

アサ

Author:アサ
二次創作を吐き出すブログ。
男同士や男女や女同士の恋愛を扱う物が多いです。
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