冬コミの準備中なので、更新が少々止まっております。
実は2冊ほど出したいなーと思っていたのですが(スペース主の友人もOKをくれましたし)ちょっと無理になりました。
動いてくれない…リンドウもソーマも。
前半は書き終わっていたのですが、後半が書いては消し書いては消しの繰り返し。で、挫折しまして。
話的には前半のみでも何とかなりそうなので、ブログに載せる事にしました。
本当はね…後半にリンソマのH入れる予定だったんだ……。
モブ×ソーマ的な表現があります。
そしてリンドウさんが酷い人です。男としてではなく人としてちょっと危険な感じです。
それでもOKって方は↓へ。
考えてみると、そんな拙いもんを本にするつもりだったのか。…駄目だろそれは。
「おい、ちゃんと録れてるか」
「おー録れてる録れてる。そっちこそちゃんと、押さえとけよ」
「わかってるって。俺だって入院はゴメンだ」
「肋骨折るとか、ありえねーよ」
男達の下卑た笑い声が響く。
画面は、暗い。あまり質のよくない録画機器で録られたものだからだろう。映し出される室内は、アナグラにもある客用の部屋とあまり変わりがないように思える。
男達はベッドではなく床に押さえ込み、ナイフで服を切り出した。
両手両足には男達が一人づつ押さえ込みをしているが、『彼』の力ならば振り払うのも容易な筈だ。それをしないのは…おそらく、男達の会話にあったように、一度襲われた際に逆らって相手に肋骨を折るような大怪我でも負わせたのだろう。
他者が自分のせいで傷つく事を、病的に嫌う彼の事だ。死にかけたその自業自得な男の事が戒めになって…逆らえない。
切り裂かれた服の中から、褐色の肌が覗く。筋肉はついているがどちらかと言えばしなやかな印象を与える彼の体に、誰かが唾を飲む音が聞こえた。
「生意気で可愛げのない餓鬼だけど…体は悪くねぇな」
「面も、歪ませてぇ位にはイイしな」
哄笑、蔑み、悪意と暴力。
彼は黙って唇を噛むと、目を閉じ顔を背けた。
全てを諦めた横顔だった。
目を背けたくなるような凄惨な陵辱のシーンを、それでも最後まで見てからリンドウはディスクを取り出した。
破壊してしまいたい衝動を抑え、乱暴にテーブルへと投げ出す。
手が足りないと言う他支部へ、ソーマが応援に行って数ヶ月。サクヤが嫌な物をネットで見つけたと、このディスクを持ってきた。
「悩んだのだけど、貴方は知っておいた方が良いと思って」
困惑と悲しみと怒りが混じった、なんとも言えない表情。
「これを見終わったら、ゆっくりと深呼吸しながら10数えて。勢いだけで動いたら、傷つくのはあの子だと思うから」
意味のわからなかった言葉は、今ならば理解できる。ただ言われた通り深呼吸して数えてみても、欠片も神経は収まらなかったけれど。
「ソーマ…」
守りたかった大切な子供は、明日アナグラヘ帰ってくる。
モノクロ
帰ってきたソーマは、いつも通りだった。不機嫌そうな表情も、ぶっきらぼうな言葉も。
「よぉ」
タバコを持った手を軽くあげて声をかければ、「おう」と変わりなく返事を返す。
ただ、近づいて耳元で囁いた時、
「話がある、後で俺の部屋来いよ」
内容にか行動にかわからないけれど、彼の肩が一瞬揺れた。
知らなければ気付かない様な、かすかな揺らぎだったけれど。
「俺は、これから報告がある」
「だから、それが終わった後でいいぜ?待ってるからな」
言い置いて身を離せば、顔を上げないソーマから、迷う気配がした。
ブザーの音にリンドウが扉を開けると、不機嫌そうなソーマが立っていた。
「ん、待ってたぜ」
身を引いて中に入るように促すが、ソーマは首を振って中へは足を踏み入れない。
「何の用だ」
来ない可能性は考えなかった。何も無かったと平静を装うつもりなら、そこまで露骨な真似はしないだろう。仕事の話の可能性が捨てられない限り。
だが中に入らないと言う可能性は想像がついたので、用意していた言葉をソーマへと向けた。
「何だよ、別に中に入っても良いだろ?お前、今からの任務無いんだから」
「任務がある」と言う言い訳を、ソーマが使う前に封じる。実際、彼に特別におろされる特務が今は無い。帰ったばかりなのだから当然なのだ。
「俺もさ、明日から他支部に行くことになってるんだ。数ヶ月ぶりに帰って来たお前と、ろくに話も出来ないで離れ離れになるんだからさ。少しぐらい可愛そうな俺との時間を持てよ」
ソーマの目が見開かれる。驚いたその隙に、リンドウはソーマを部屋に引きずり込んだ。
「他支部って、どこだ?」
ソファに座らされて、最初の言葉がそれだ。自分が行った所に行くのではないかと、心配しているのだろう。自分がされた事がばれるのではないか…では無く、純粋にリンドウが同じ目にあわないかどうかを、だ。
ソーマはわかってないと、リンドウは内心苦笑する。リンドウの戦闘力はソーマより強い。そして何より、己に害する者に対して「怪我を負わせまい」とするような人の良さは、生憎欠片も持ち合わせては居なかった。
おそらくそんな馬鹿げた…自己犠牲にも似た意識を持っているのは、このアナグラでもソーマぐらいだ。出生や生い立ちに理由があるとは言え、少々行き過ぎだとリンドウには思える。
「さぁ、どこだったかな。聞いたけど忘れちまった。どこだって、俺達がやるべき事は一緒だしなぁ」
一瞬の躊躇の後、ソーマは小さく頷いた。
「そうだな」
まったく、わかりやすい。ここまでくれば、あの映像を見ていなくても何かオカシイとわかっただろう。
そんなソーマが可愛くて可哀想で…愛しくて。リンドウは何だかたまらなくなってそっとソーマを抱きしめた。
腕の中で硬直するのを構わずに、出来るだけ優しく。
「ソーマ」
「な、何だ、離せ」
不意打ちだった為か、彼の声が震えた。
「お帰り、お疲れさん」
「何、言って…」
「大丈夫だから…力を抜け。ここに…アナグラに、お前に危害を加える奴は居ない」
固まっていた体が、大きく震える。気付いたのだ。リンドウが、知っている事に。
「何の事だ、リンド…」
声が掠れている。取り繕うのを失敗し、ソーマは唇を噛んだ。
「どう、して」
「俺の情報網、なめんなよ」
言いながら、きつく抱きしめ続ける。ただ温もりが…優しさだけが届いて欲しいと。だが腕の中の体は、力を抜こうとしない。それどころか、抜け出そうとすらし始める。
警戒されているようで、何だか息が苦しくなった。
「俺の事も…信用できないか?」
数年の付き合いで、少しは近づけたと自惚れていたのに。
ソーマはリンドウの言葉に軽く首を振った。
「そうじゃねぇ…そんなんじゃ、ねぇんだ」
「じゃあ、何だ?」
「………」
苦しげな顔で息を吐いて、
「知ってんだろ…何が、あったのか」
それでも痛々しい程冷静を装って、
「俺に、触るな……お前が、」
吐き出された言葉は予想外の鋭さで、リンドウの心を貫いた。
「お前が、汚れる」
「ソーマ…お前が」
どうして。
「どうしてお前に触れる事が、汚れるなんて事になんだよ」
「俺が…」
「お前は被害者だろうが。あのクソ野郎どもが薄汚れてるのは事実だが、あいつらに傷つけられただけのお前が…なんで汚れてるなんて結論になるんだよ、お前は」
抱きしめる腕の力を緩める事は出来なかった。痛い位だろうと予想はつくのに、どうしても放せない。
「別に俺は、被害者だとは思ってない。あいつらが望んで、俺が…俺は、受け入れた」
あの映像を見ればそれが偽りである事ぐらいわかる。彼の痛みと苦しみ、嫌悪は本物だった。
なのにまるで己に言い聞かせるように、自身を貶める事を言う。
「止めろ、ソーマ」
「リンドウ、だから離、」
「止めてくれ。お前を…俺の、大事な人を、貶めるような事を言うな」
驚いたのか、ソーマの抵抗が止む。リンドウはソーマの肩に額を落とした。
「お前が、大切なんだ。お前が愛しい。だから……そんな言葉で、お前を傷つけるな」
ソーマがその言葉に何を感じたのかわからない。ただ、リンドウの腕の中で、小さく震えていた。
翌日。
他支部に向かう為にヘリに乗り込むリンドウを、サクヤが呆れたような諦めたような表情で見送りに来た。
「あまり、オオゴトにしちゃ駄目よ」
「わかってる」
向かう先は一つ。先日までソーマが居た、かの支部だ。現支部長の榊に、ごり押しして叶った遠征である。
「支部一つ潰したら、一般人に迷惑かかるんですからね?」
「潰さないって。関わった奴だけだ」
息苦しい思いをしながら、ディスクを見返して顔と声を覚えた最初に入院したと言う奴も併せて6人が、この遠征中に不幸な事故でアラガミに食い殺されるだろう。
ゴッドイーターの死は、悲しい事だが日常的だ。疑われずに全てをこなす自信はある。
だから、今気になるのは。
「サクヤ、ソーマの事…」
「わかってる…気にしておくわ」
ヘリコプターがたてる轟音の中、ゴッドイーターならではの耳の性能で成立した物騒な会話を、リンドウはうなずく事でそこで終わらせた。
促されるまま準備の整ったヘリに乗り込み、座席に座ると目を閉じる。
これから行おうとしている事に対して、罪悪感は一切湧かない。
ただ自分が居ない間、再び誰かがソーマを傷つけたりはしないか、そればかりが気がかりだった。