エロは一切ありませんが、事後的表現があるので15禁です。
サイド:S
ソーマはゆっくりと目を開いた。少し、意識が飛んでいたらしい。
リンドウとの性行為はいつもそうだ。腹立たしい事に彼の手や舌に翻弄され、途中から完全にトばされる事も珍しくは無い。
何だか少し悔しくなって、己を翻弄した相手を探して視線をめぐらせれば、彼はソーマの寝かされたベッドに座りタバコを吹かせていた。
彼がタバコを吸う姿は珍しくは無い。ニオイが染み付く程度には彼はヘビースモーカーだ。だから、ソーマが思わず息を呑んで見入ったのはタバコが原因ではなかった。
ソーマに向けられた、筋肉質な広い背中。そこにつけられた、無数の引っかき傷。
「ん?起こしたか?」
視線を向けて来たリンドウに応えず、ソーマはそっと手を伸ばし傷口に触れる。痛みを感じたのかリンドウが、少しだけ身を震わせた。
明らかに荒神ではなく、人によってつけられたそれ。先程…ソーマと寝るまでは、無かったモノだ。
「これ…は、俺が?」
リンドウは苦笑を浮かべると、ソーマの手をとってベッドへと押し倒してきた。
「そ、お前。でもでも謝ったりするなよ?俺は嬉しいんだから」
「うれしい?」
思わず眉を寄せて問いかければ、本当に楽しそうにリンドウは笑った。
「ああ、お前がすがり付いてくるのが、凄く可愛くて嬉しい」
思わず反論しようと開いた口はリンドウの唇に塞がれ、そのまま何を言う余裕も無く、再び快楽へと落とされた。
サイド:R
油断したな、とリンドウは思う。背中につけられたソーマからの傷は、本当にリンドウにとっては愛しい物だ。あの人馴れないソーマがリンドウを信頼して体を開き、更には我を忘れるほど溺れた証だ。
だが、ソーマがその傷の存在に気付けば、気にするだろう事はわかっていた。彼は不器用だが誰よりも優しく…誰かを傷つける事を酷く恐れていたから。
だから、気付かれた日から五日ほどたったこの日。「もうリンドウとは寝ない」と言われるのを覚悟の上でソーマを部屋に誘った。もちろん言われた所で納得する気はないし、言い包める自信があっての事だ。
ソーマはだが、リンドウの予想に反して素直に部屋に招かれた。初めからリンドウは欲望を隠しはしなかったし、ソーマもそのつもりだったのだろう。部屋に入って直ぐに、扉に体を押し付けて奪った口付けを、ソーマは拒みはしなかった。
ただ、口付けを深めようとした時に強くは無い力で肩を押される。
「なんだ?今更ダメって言われても、止まらねぇぞ」
「ダメ、とは言ってない。少しだけ、待て」
言いながらソーマは、あの多量にあるポケットの一つから白い物を取り出す。思わずマジマジ見ていると、それをソーマは手に嵌めた。
それは、手袋という奴だ。軍手ほど厚くは無さそうだが、そう薄くもなさそうなそれ。ソーマのイメージなら指先の無い硬い革の手袋などが合いそうだが、明らかに柔らかそうな素材の指先までしっかり覆われた代物だ。
ソーマは嵌めた手袋の感触を確かめるように、幾度か開いたり握ったりを繰り返すと、満足したように改めてリンドウを見上げてきた。
そこに来てようやく、リンドウの思考も動き出す。
つまる所ソーマは、リンドウを傷つけない為に、リンドウを拒むという選択肢ではなく、防御壁を間に挟む方向で来た訳だ。
「あーもう、」
理解したとたんに堪らなくなって、リンドウはソーマをきつく抱きしめる。
「っ、おい、リン…」
突然の暴挙にあわてたように、身をよじるソーマを腕の中に閉じ込めて。
「覚悟しろよ」
「は?」
「今夜は眠れると思うな」
「はぁ!?」
驚きに見開かれた目元に
「お前が可愛すぎるのがいけない」
落とした口付けはひどく、甘い気がした。
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なんだか異常に甘い話になってしまって、凄く…申し訳ない気分でいっぱいです。