9話BADEDのネタバレ有。
直接的表現はありませんが、事後的表現があるので15禁にさせていただきます。
伸ばした手は届かなかった。
「お前と一緒なら」
そんな言葉は、彼には何も箍にはなりはしなかった。
彼はただいつもの様に、少しだけ困ったように笑って。
花札を…白達を消滅させるより、己の命が消える事を選んだ。
判っていた。他者の命を犠牲に生きるより、己の身を投げ出す男だと。
「俺はお前達が大好きだから、お前達を守りたいんだ」
そんな事を真顔で言える奴だったし、常にそれを実践して来た。
だけど、少しでいい。ほんの少しで良いから…残される者の気持ちを、考えて欲しかった。同じ事をされた時お前が、どんな風に感じるのかを。
お前が居ない世界で生きる位なら、俺は。俺は……
世界など滅んでも構わなかった。
目を開けた時、一瞬己がどこにいるのか判らず壇は瞬きをした。
見慣れぬ天井と、寝なれぬ布団。
目頭から流れる液体で、髪まで濡れているのが判る。
己の体の、右側から感じる温もりにゆっくり視線を向ければ、太平に寝ている見慣れた姿。
彼の姿を見た途端、グッと何かが胸に詰まって息が出来なくなった。
彼は、生きている。生きて、側にいる。
当たり前だ。あの日花札の封印か消滅かを迫られた時、彼は別の道を選び…そして見事に未来を勝ち取った。
花札達は戻り、彼は生きながらえ、世界は滅びへの道を遠ざけた。
なのになぜ今更、こんな夢を……。
壇は手を伸ばし、そっと七代に触れる。形を確かめるように、頬から耳、首から胸へ。
先程まで壇によって快楽を得ていた体は、まだ快楽の火が残っていたのか、日に焼けた体にほんのり紅が差した。
壇が七代とこんな関係になったのは、少し前だ。
実は結構前に、七代から告白はされていた。特別な意味で、壇を好きだと。だが壇はどうしようもなく常識人で、男同士の恋愛を受け入れる事は出来はしなかった。
それが変化したのは、あの事実を知った後。
彼に対しての同情などではなく、この存在が自分の許から『奪われる事』が耐え難く感じられたのだ。それはあまりにも利己的で身勝手な、だが…友情だけではない、感情。
その後も壇の中で紆余曲折あったものの、結局己の感情を受け入れ七代へ伝えたのが最終決戦の日の夜だった。
今日も休日に二人で出かけ、帰りに裏通りの目立たない安ホテルで抱きあった。
いつもと変わらない日常の中で、なぜこんな夢を見てしまったのか、判らない。
「…ん、」
体を撫ですぎたのか、七代が微かにうめいて目を開ける。
「とう…じ?」
散々鳴かせ過ぎた為に掠れた声が、壇を呼ぶ。
「ど…した?」
伸ばされた手が目頭を撫でる。
たまらなくなって壇は、七代をきつく抱きしめた。
愛しているとか好きだとか、そんな言葉では表せぬ感情が渦巻いて、酷くもどかしい。
背中に感じる力強い腕に再び泣きそうになりながら、壇はただきつく目を閉じた。
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壇主は凄く好きなんですが、友情を超えるのが難しいです。
いや、友情以上恋人未満な二人でももどかしくて好物ですが。
ちなみにお気づきとは思いますが、9話BADEDからの2週目主人公です。