初めの話、リンドウサイド。
冷蔵庫から新しい配給ビールを取り出して振り向くと、ソーマはソファに突っ伏して眠り込んでいた。
「早いな」
リンドウは苦笑し、そのままソファへと近寄る。アジア系でもないくせに、ソーマは酒に弱い。本人は酒自体を滅多に飲まないので知らなかったようだが、最初にリンドウが誘って二人で酒を飲んだ時、三口で完全に酔っ払いになった。
彼の酒の酔い方は、わりと静かだ。暴れたりするのではなく素直になる。
普段は隠し一人で抱え込んでいる、不安や悲しみがただもれになるのだ。どうも酔った時の事をソーマは欠片も覚えておらず、二日酔いにもならない為に自分が酔いやすい体質だと言う自覚が本人には無いのだが。
それに気付いてからはリンドウは定期的にソーマと酒を飲む事にしている。ずっと溜め込んでいるよりは、記憶に残らなくともガス抜きにはなると思ったからだ。
本日もそんなガス抜き飲み会だったのだが、潰れるのがいつもより早かった。
「お疲れかねぇ」
言いながらテーブルにビールを置き、ソーマを軽く抱き上げる。
昔に比べればずいぶんと大きくなったが、それでも鍛えているリンドウには大した重さではない。
そのまま己のベッドへ運び、寝かせてやる。
「眠ってると…年相応なんだけどな」
外れかけたフードをずらし、そっと髪を梳く。幼い寝顔に少し胸が疼いた。
ソーマを寝かせたベッドの傍ら、結局テーブルから持ってきたビールのプルトップを開ける。
独特の苦味で喉を潤しながら、そっとソーマの寝顔を覗き込んだ。先ほどは年相応と呟いたが、改めて見ると年より幼く見える。
ずらしたフードを完全に落とすと、再び髪を軽く撫でた。
フードは彼を守る鎧だ。荒神からではなく、他者の悪意ある視線から心を守る為の。
だが、それを取り払い髪をかき回しても起きないソーマに、リンドウは笑みを浮かべた。酔っているせいだとわかっていても、そこまで信用されているようで悪い気はしない。
そのまま撫で続けていると、ソーマの手が動きリンドウの手を掴む。起こしたのかと様子を伺えば、ソーマは眠ったままリンドウの手を握り締めていた。
「あーまったく、この子は」
手を握らせたまま、身を屈めて頬に唇を寄せる。
愛しいと思う。それはすでに仲間への情を超えていた。兄弟のように家族のように…ならばどれほど良かっただろうか。
だがリンドウの想いには確かに欲が伴っている。
「恋愛なんざ、する気は無かったんだけどなぁ」
こんな時代だ。想う相手を作っても、箍にしかならない。だから常に一定以上にはならぬよう、ブレーキを掛けて来たのに。
「お前は本当に、困った子だよ」
リンドウの声に応えるように、ソーマが小さく身じろいだ。
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リンドウがソーマへの想いを受け入れた話。
「優しい手」と同じ流れのイメージで書いております。こちらはリンドウ25歳→ソーマ17歳。ゲームの大体一年前で。