サザキ柊ではなく、サザキ+柊。
正確にはサザキ→千尋と風早(たぶん)×柊。ほんのりレヴァンタ柊の香りもあり。
「あんたさ、男が好きなの?」
書庫などには縁がないサザキは、その部屋に入るのは初めてだった。物珍しいものが多く興味は惹かれたが、それよりやらなければならない用事がある。この部屋に入り浸り、この部屋の主のように振舞う男。前々から顔は知っていたが、まともに話した事はなかった。
本来直球勝負を好む気質の有るサザキには苦手なタイプではあるが、相手に合わせて遠まわしな話をする気にもなれない。
だが流石に第一声から、あまりにも包み隠さぬ言葉過ぎたか。常に飄々としている印象だった目の前の男が、流石に目を見開いた。
「私が、ですか?」
「ああ、あんた」
男はすぐに衝撃から立ち直ったらしい。いつもの内心の読めぬ笑みを浮かべ、肩をすくめて見せた。
「とんでもない誤解です。私が愛し慈しむのは我が君のみ。男にそのような……」
「でもあんた、レヴァンタの女だったろう?」
それは、あの屋敷では隠されてもいなかった事実だ。中つ国の将でありながら、その美貌と身体でレヴァンタに取り入った悪女だと。噂だけではない。レヴァンタは彼に近づく男へは嫉妬を露にしたし、酒宴の時などは人前で抱き寄せる事も多々あった。
「ええ、それは必要な事でしたから。ですが、あの程度で男好きなどと言われましても」
「だけじゃねぇだろ。あんた、姫さんの下に来てからも男居るだろうが」
激しい戦闘の後、遠夜だけでは回復の手が足りず、サザキも手が空いていたために手当ての手伝いをした事があった。その時に偶然見たのだ。
普段から身体の殆どを衣類で包み隠した、この男の肌。裂けた布の隙間に見えた跡は、何をすれば付く物か…知らぬほどサザキも初心ではない。
「……否定は、しませんよ」
溜息と共に、彼はようやく認める。
「それで、私に男が居れば、何か問題でも?」
からかう様な言葉に、サザキは首を振った。
「確かに、恋人がいるってんなら俺も何も言わねぇさ。だけどあんた、本命は姫さんなんだろ?」
サザキはつまらなそうに、唇を尖らせる。
「だったら、男の恋人とかじゃなく、性欲処理とかそんな相手だろ?あんま手当たり次第に手ぇ出したりしてるとよ、拙いんじゃねぇの?」
おや、と彼は驚いたように声を洩らした。
「もしかして、盗賊である貴方が風紀の心配ですか?」
「盗賊じゃねぇ、海賊だ。それと、風紀じゃねぇ」
この軍は、この場所は、彼女の大切な場所だから。男同士の痴情の縺れなどで、壊して欲しくはないのだ。
「だからよ、どうしても男が欲しい時は俺に言えよ」
「貴方に?」
「俺だったら、アンタに本気になるようなバカな事にはならねぇし、まぁ女の方が良いけど男も出来なくはねぇし」
「………」
しばしの間の後、彼は思い切り噴出した。サザキが初めて見る、本気笑いだ。
「な……」
驚きに一瞬言葉を無くし、それからサザキは顔を赤くする。
「何だよ、人が本気で考えて…」
「え、ええ、すみません。我が君とこの国や軍の為に、自分が犠牲になろう何て、すばらしい事だと思いますよ。私も軍師として、礼を言いましょう、ありが…」
「馬鹿にしてんのか!」
怒鳴りつければ、彼はようやく笑いを納め、
「馬鹿になど、していません。本気で感謝しているんです」
どこか悲しげに目を細めてうっすら笑みを浮かべた。
「そうですね…もし私が今の恋人に捨てられたら、その時は貴方にお相手願いに行きましょうか」
「へ……」
「意外ですか?私に本気の恋人がいる事は」
彼の笑みはすぐに悪戯な物に変わり、サザキの顔の赤らみも怒りの物から恥ずかしさゆえの物に変わる。
恥ずかしさのあまり勢い良く書庫を飛び出したサザキの背を、楽しげな笑い声が追いかけてきた。
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本当はサザキ柊を書こうかと思ってたんだけど、どうしても私の書く柊はどこまでも風早を好きらしい(他人事のように)。
サザキ→千尋と風早←柊なサザキ柊も書いてみたいと思った。愛の無い、傷の舐め合いのような。