またもやお初の話。しかも前と同じく事後次の日設定です。前回の「反則」とは違い今度は酒の力を借りてないバージョン。
最近我が家のリンドウ氏がヘタレ化している気がして、そろそろ鹿子草さんに土下座しないといけないんじゃないかと戦々恐々としております。
そして30お題で「次パラレル書きたい」とか言ってたくせにかなりの狼少年っぷりです。
本当にもう色々すみません。
昨夜、初めてソーマはリンドウに抱かれた。別に好きだとかなんとかそんな会話が過去にあった訳ではないが、昨夜リンドウの部屋で会話を交わしている時に、会話の流れで唐突に押し倒された。
その後、事の最中に「カワイイ」とか「欲しい」とかふざけた事を言われた気もするが、朦朧とした意識での事なので自信は無い。そしてやはり「好き」だとかその類の甘ったるい言葉は無かったように記憶している。
別にそんな言葉が欲しかった訳ではないが。
ただ、自分はリンドウに対して恋愛感情を自覚しており、彼が望むなら別に構わないと流されたその結果が、この目の前の背中ならばもう少し自分も考えるべきだったとソーマは思った。
目の前の背中。目覚めてすぐに目に飛び込んできた、大きくて筋肉質で傷はあるけれどキレイな背中。
リンドウはその背を丸め、後悔している事を全身で伝えてきていた。
まだぼんやりと目を開けただけで、身じろぎも無かったソーマが目覚めた事も気付いていないのだろう。
小さな声で「しまった」とか「駄目だろ」とか後悔の言葉を呟いている。
もしかしたら昨夜は、ザルなのに珍しく酔っていたとか。またはリンドウの子供が欲しい誰かにクスリを盛られていたとか。
それならば彼がいきなり、女ではなく可愛げもなく抱いてもつまらないだろう自分に手を出した理由もわかる。
ソーマはそっと後悔で固まっている背に手を伸ばした。
別に責任を取れだなんて言わない。取って欲しくもない。ただの性欲処理として抱き合った。それでいい。
自分のせいで苦しむリンドウを、ソーマは見たくなかった。
「お…い」
声が掠れている。回復が早い筈なのに一晩寝ても回復しないとは、どれほど酷使されたのかが伺える。ソーマは我事ながら呆れもしたし、昨夜の己の嬌態を思い知らされるようで恥ずかしくもあった。
だってこれは、想い合っての行為ではないのに。
伸ばした手が届く前に、リンドウはソーマの声に弾かれた様に振り向く。
その顔は青ざめて見えた。光の加減かも知れないけれど。
「ソーマっ!」
リンドウの手が、伸ばしていたソーマの手を掴む。触れる事を拒まれている気がして、ソーマは手から力を抜いた。
「ゴメン、ソーマ。悪かった!」
畳み掛けるように向けられた謝罪の言葉に、ソーマはキリキリ痛む胸の中で状況を整理し考える。
きっと、気付かれたのだ。ソーマのリンドウへの気持ちに。昨夜あれだけの嬌態を見せれば、それも当然かもしれない。
クスリや酒のせいか勢いでうっかり手を出した相手が、自分を好きだとなれば後悔も倍増だろう。
「別に気にしてない」「こちらも性欲処理のつもりだった」それとも「何の事だ」と惚けるのが一番か。どう言えばリンドウが、引き摺らないで済むだろう。
いっそ男馴れしているふりはどうだろうか。幸い女ではないから初めてかどうかなんてわかりはしないだろう。遊びで何人もの男と寝ていると…リンドウが特別ではないのだと言えば、彼の罪悪感も消えるのではないのか。
「気に、するな。俺は……っ!」
言いかけた言葉は、中途半端に途切れる。リンドウが酷く落ち込んだ顔のまま、握ったソーマの手に口付けを落してきたのだ。
驚いて逃げかけた手は、強い力で引きとめられる。
「逃げるな…逃げないでくれ」
懇願するような声に混乱して再び力を抜けば、指を絡められた。
「お前が…俺に怯える気持ちはわかる。でも、逃げないでくれ」
「怯え…る?」
意味が分からず首を傾げれば、リンドウの方こそが何かに怯えるように、恐る恐るソーマへと顔を近づけてきた。
額に、頬に、そして唇にキスをされる。
混乱するまま受け入れていたら、リンドウは身を起こしホッとした様に笑った。
「拒まないで、くれるんだな」
「何、言ってんだ?第一、俺が何を怯えなきゃいけない」
聞きたいのはそれではなかったけれど、昨夜あそこまでの事をしておいて、今更「なぜキスするのか」等とは問いにくい。たとえその行為を相手が酷く悔やんでいるのだとしても。
ソーマの問いにリンドウは目を瞬かせ、それから気まずそうに視線を泳がせた。
「いや、だって昨夜…」
「……?」
「泣かせただろ?」
「は?」
今度はソーマが目を瞬かせる番だ。
「泣いてねぇ」
「泣いただろ、俺がお前に入れた時。怖いから、もう止めてくれって」
確かに、そんな事を、言ったような気がする。みっともないが、怖かったのは本当だ。内側から侵食され、過去の己を全て塗り返され、喰い尽される気がした。「止めてくれ」と言えば「何故だと」と問い質され、朦朧としながらも「怖いから」だと白状させられた記憶は、ある。
「お前が怯えて嫌がってるのに、なんつーか、俺は、欲望に負けた」
無骨な手が、優しく髪を撫でてくる。
「お前カワイイ顔で、あんなカワイイ事言うから、」
理性がぶっ飛んだと、溜め息のような声で言われた。
訳がわからない。彼は己との行為を、悔やんでいたのではないか。
「お前、さっき「しまった」とか「駄目だ」とか…」
「いや、だって駄目だろ。やっとお前を手に入れたのに…あんな事しでかして。お前に怯えられたり嫌がられたり嫌われたらどうすんだよ」
だから、キスを拒まなかった事で安心したのか。
いつも自信にあふれた態度を取っていても、この男の弱い部分をソーマは知っている。だがこんな風に、彼が己の情けない胸のうちを、ソーマに晒したのは初めてだ。
さっきまでの誤解と葛藤、そして情けない彼の一面を見た嬉しさが相まって、何だかひどく気恥ずかしくなってくる。
赤く染まっただろう顔を隠す事も出来ずに困っていると、それをどう受け取ったのか再びリンドウにキスをされた。
「抑えられなくて、ごめん。これからも抑えられないと思うけど、ごめんな」
キスの後耳元で不穏な事を言われたきがしたが、更に深く唇を貪られ沈んでいく意識では考える事など出来はしなかった。