引き続き現在は配布を終了している『モノカキさんに30のお題』からお借りしていた物です。
リンソマばかりです。文とも呼べない会話だけもあり。
今回は26~30まで。
今回も薄暗いものが混じってます。
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26. パンドラ
「パンドラの、神話を知ってるか?」
神話なんて物を、知っている者は少ない。物語よりも知るべき知識が事欠かない時代だ。ましてやソーマは物語なんかに興味を引かれる性格ではない。それを知っている筈の男は、唐突にそんな問いをソーマへと向けてきた。
「知るはず、ないだろ」
答えた声は、少し掠れている。散々目の前の男に鳴かされたせいだ。それが少し悔しく、また恥ずかしくもある。
リンドウは少し笑って、ソーマの喉に手を当てた。
「開けてはいけない箱を夫に空けさせた、愚かな女の神話だ」
知らないと、再び言おうとした所を抱き寄せられる。途切れた言葉を封じるように落とされる口付け。
「俺は…パンドラの夫なのかも知れないな」
再び這い回りはじめた手に翻弄され、彼の零す言葉の意味に思考はまわらない。
「それでも、最後に。お前に希望を残せるのであれば…」
霞む視界の先で彼が、優しく笑った気がした。
新種のヴァジュラが発見される、ほんの数日前の話。
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27. 迷い子
背後から近づいてくる人の気配に、ソーマはちらりと視線を向けた。
わざと気配を消していなかったのだろう現リーダーは、ソーマの視線に気がつくと口元に笑みを乗せる。
「何をしに来た」
「迎えに」
簡潔なアラタの返事に、思わず眉間に皺がよった。
「必要ない」
「そう?」
ソーマの睨みにも堪えた様子もなく、彼はソーマの横に並んだ。
見下ろした先には、先ほどまでソーマが戦っていた痕跡。
アラガミは…既に霧散して消えていた。
「最近」
見下ろしたまま、アラタが口を開く。
「最近帰りが遅いから…迷子にでもなってるのかなって」
そんな事ある筈ないだろうと、笑い飛ばそうとして失敗する。
迷子になんてなっていない。だけど、
時々、帰る場所が、わからなくなる。
言葉に詰ったソーマの手を、白い手が握った。
彼と同じ色の、手。
「だから、迎えに来た」
その手がきつく、ソーマの手を握り締める。
「これからも、迎えに来るよ」
痛いほどの力の篭った温もりに、今は居ない誰かを思い出し、ソーマは目を閉じた。
「帰ろう」
『帰るぞ』
「…ああ」
帰る場所なんて見失ったままなのに、どこに帰ればいいのだろう。
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28. 記憶
夜中にいきなり叩き起こされたと思ったら、ソーマの部屋にあるソファへ連れて行かれた。「またか」と思っている内に、リンドウはソーマを膝に乗せて所謂『だっこ』状態にする。
寝ぼけてはいたとはいえ多少は拒んだのに、簡単に扱われてしまったのが腹立たしい。
だが、暴れても殴ってでも抜け出そうとまで思わなかったのは、リンドウの精神が不安定になっているのを感じたからだ。
己の部屋ならば誰に見られる訳でも無し、シクシク痛む己のプライドなんて苦しげな彼を拒む事に比べれば大した事ではなかった。
前に、聞いた事がある。アナグラに戻ってから彼は、時々酷い悪夢を見るのだと。
悪夢…アラガミであった頃の記憶が蘇る事を、夢と呼んでいいのならば。
仲間を襲おうとする体と、それを拒む自己。
現実では幸い新型のおかげで殺さずにすんだが、夢では殺すこともあるらしい。
そんな記憶に苛まれ、目覚めた後も落ち着かずに。まるで無事を確認するかのようにこの部屋に訪れ、抱きしめるリンドウを拒む事など…出来るはずも無い。
「ソーマ…」
「……ああ」
ここに居ると言葉にする代わりに、体から力を抜いて彼の腕に体重をかける。
ますます強くなった彼の腕の力に、ソーマは静かに目を閉じた。
彼の中の痛みが、苦しみが、せめて落ち着くまでは。
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29. おかえり
「お前は、言わないのか?」
「ん?」
「おかえりって」
アナグラに帰って来てから、数え切れないほど沢山の人に言われた言葉。だが、この少々強引にお邪魔した部屋の主は、まだ言ってくれていない。
「言って欲しいのか?」
呆れたように言われて、少し傷つく。
「言って欲しい。でも、お前の本心からの言葉じゃなきゃ、意味はねぇかな」
「…今更俺が言わなくても、沢山言われてただろ」
「でも、お前からじゃない」
ソーマは小さく溜め息を吐いた。
「あんな熱烈な『お帰りなさい』をもらったくせに、まだ足りないのか」
ソーマの言う『あんな熱烈』がわからず首をかしげ、それから思い至って思わずだれていた身を起こした。
「まさかお前、サクヤからのを言ってるんじゃないだろうな!?」
名前を出したとたんにソーマの視線が外され、そうなのだと知る。
確かに熱烈といえば熱烈だった。キツイ抱擁と、そこから流れるように決まったジャーマンスープレックス。アラガミ化で更に丈夫になっている体でも、中々堪えた攻撃だった。
しかもそれによって、ソーマに妬かれるのでは更なる打撃だ。
「勘弁してくれ…」
頭をガリガリ掻き毟れば、ソーマがこちらへ視線を向けるのがわかった。
「それに、」
「ん?」
「それに、お前…帰ってきたかったのか?」
「っ!」
言葉に詰る。
確かに、帰ってくるのは気が重かった。アラガミ化したとは言え、帰れば皆が暖かく迎えてくれる事はわかっていた。優しい奴らだ。
だから、引っかかりはソコではない。
前例もなく、自分は何時またアラガミ化しないとも限らない身で、大事な仲間達が沢山居る場所に帰る。それは酷く気の重い選択だ。助けてくれた新型には悪いが、アナグラに帰らない選択肢も自分の中には大きくあった。
「確かに…俺は、帰るのが怖かったよ」
だが、それでも
「それでも、帰ろうと思ったのは…お前に会いたかったからだ」
泣かせたと思った。悲しませた、と。彼の『死神』と呼ばれるジンクスを、覆したかったと言うのもある。
そして何より、会いたかったのだ。
「ソーマは、俺が帰らない方がよかったのか?」
ずるい問いだ。こんな聞き方をすれば彼の性格では絶対に、リンドウの帰還を否定する事など出来る筈ないのに。
「んな事、言ってねぇ」
案の定ソーマは少し迷うそぶりを見せ、それから顔を赤く染めながら、とても小さな声で言ってくれた。
「オカエリ、それから、俺だって……」
彼らしくない蚊の鳴く様な声に、初めてアラガミ化して鋭くなった聴覚を感謝した。
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サクヤさんのリンドウ帰還によるおかえりの挨拶は「抱擁→ジャーマンスープレックス」が我が家のディフォルト。
冬コミで発行した本でもさせました。サキヤさんは最強漢前希望。
そしてリンドウさんとサクヤさんは、男女なのにその位出来るような親友関係が理想。
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30. And that's all ...? (それでおしまい)
腕輪が腕から外れた瞬間、体内のアラガミが暴れだしたのがわかった。
歪む視界、揺らぐ体。
意識が保てない。侵食する。
中から、喰われる。
意識の奥に、ふと面影が浮かぶ。
きっと、あいつは泣いている。
泣かせたく、ないのに。
『ゴメンな』
もう、伝える事も出来ないけれど。
『愛してた…』
浮かぶ面影が、少し怒った様な顔で、こちらを睨みつけてきて。
状況に似合わぬ笑みがこぼれる。
もしも最後の願いが叶うのならば。
アラガミ化した俺を倒し止めを刺すのは、あいつではありませんように。
これ以上の悲しみを、あいつが背負わなくて良い様に。
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終わりました!30題!!!
もう本当に難しかった。難しかったよ……。
ネタが全然浮かばないお題とかあったし、時代や舞台背景に合わないお題とかね。
ラストのお題も悩んだのですが(ぜんぜん「めでたしめでたし」じゃないし)。でもまぁ「これでおしまい?」と言うタイトルでリンソマと考えれば、このシーンが一番合うのかなぁと。
あーがんばりました!
いや、別に誰かにやれと言われた訳じゃないし、勝手に初めて勝手にがんばっただけなんですが。
実は白状しますと、お題を書き上げたの初めてです。大抵途中で(投げて)おわります。
今回書き上げられたのは、拍手や評価を押して下さったりブクマをして下さったお優しい皆様と、しつこくリンソマへの愛を語る私を優しく受け止めてくれた鹿子草さんのおかげです。本当に本当にありがとうございました!
次はパラレルとかに手を出すかもです。今回のお題でもちらっとパラレル書きましたが。
王道に学園モノ(先生×生徒)とか記憶喪失モノとか吸血鬼モノ(神父×吸血鬼)とか…脳内のネタは多々あるんですけどね。上手く吐き出せないだけで。
色々なジャンルに多少浮気はしてますが、それでもリンソマを超える萌えには出会えてません。凄いな…もうすぐ一周年だ。
でもまだまだ書きたいのです。お付き合い頂ければ嬉しいですv