バースト後です。
実際、リンドウさんは飄々とした態度をとってるけど、本当に平気な訳は無いと思うんですよね。なので苦悩のリンドウさんの話を書きたいな、と。
リンドウさんとソーマは、立場が一緒になったと思うのですよ。同一ではないけど同じように異端と言うべきか。
捏造妄想180%ですみません。しょせん脳が腐っているので。
夜中にふと目が覚めると、確かな温もりが傍らにあった。
己の鼻先にある銀の髪。
アナグラの中は、明かりを落せば完全な闇だ。完全防御の為に窓など当然なく、本来それぞれの部屋にある非常灯の類は、ソーマが厭って壊してしまった。ゆえにソーマの部屋は、電気を消せば真の闇となる。
だが、リンドウの目には腕の中のソーマがはっきりと見えた。
元々夜目は利く方だったが、一度アラガミ化してからは完全に夜も見えるようになった。聴力も上がり、闇夜の任務も滞りなく遂行出来るだろう。
不思議な感覚だった。違和感と、見えすぎ聞こえすぎる事への疎ましさ。
おそらくこれが、ソーマの体感してきた世界だ。
そう思えば、多少感慨深い所でもある。
そっとソーマの頬に手を滑らせる。
人ではなくなりアナグラに戻ってから、リンドウはソーマにだけ内心の苦悩をこぼし縋った事があった。あの時は本当に色々内面で重なり、だいぶテンパって居たのだ。思い出しただけで赤面しそうな程みっともなく喚き、縋りついた。
『リンドウさんなら大丈夫』と言われれば苦しかった。『流石リンドウさん』と褒められれば落ち込んだ。
自分はそんなに強くは無い。それをわかっていて気を張るのは辛かった。人でなくなってからは、特に。
昔、自分がまだ人間の枠に辛うじて入っていた頃に良くソーマに言った「お前は人間だ」と言う言葉を、いざ自分が受け取ってみれば酷くキツイ言葉だとわかった。
あの頃その言葉を向ける度、ソーマが複雑な顔をして否定し続けた気持ちが今ならわかる。
何もかも投げ出したいと、いっそアナグラからも逃げ出したいと呻いたリンドウに、ソーマは突き放すように「勝手にすればいい」と言った。
「それでお前が楽になるなら好きにしろ」
「たとえアナグラに居ても居なくても」
「リーダーや伝説の男ではなくても」
「お前は、お前だろう?」
「お前はただの『雨宮リンドウ』であればいい」
気負いもなく、同情もなく、ただ本心を言っただけだとわかる普段の表情で。
だからこそその言葉に、リンドウは救われた。
自分自身を疎い投げやりに生きていた、あの頃のこの子にもそう言えば良かったのだろうか。「お前は人間だよ」と言うのではなく、彼に入っているアラガミごと認めれば。
今更、ではあるのだけれど。
腕の中のソーマは、穏やかな表情で眠っている。リンドウが優しさのつもりで向けた言葉に傷つけられた事も、彼に自分を見捨てる為の退路を開かせた事も、みっともなく縋って助けを求めた事も、ソーマは全てを許し受け入れてくれた。
「お前は…俺に甘すぎ」
リンドウの自嘲を帯びた声が聞こえた訳ではないだろうに、ソーマの手が頬を撫でていたリンドウの手を掴む。
眠ったままその手に頬を擦り付けられ、リンドウは泣きそうな笑みを浮かべた。