引き続き現在は配布を終了している『モノカキさんに30のお題』からお借りしていた物です。
リンソマ短文ばかりです。文とも呼べない会話だけもあり。ちらりと18禁っぽいのがあるので、一応18禁です。
今回は6~10まで。
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06. レトロ
旧世代の遺産とも言うべき音楽が、ソーマは好きらしい。今はもう歌等と言う娯楽は売り物には出来ず、廃れてしまった物だ。ソーマ自身元々は聞きたくない物から耳を塞ぐ為の道具だったようだが、最近は気に入りの曲を選んでいるのだから立派に趣味の領域だろう。
気に入りの音楽を聴いている時のソーマは年相応に幼く楽しそうで、それはそれで良いとは思うのだ。思うのだが。
彼は洋楽のロックを好む。曲が激しくテンポも速い…いわゆるハードロックと言う奴だ。それを悪いとは言わないし否定もしないが、ただ少し、歌詞がハードなのが気にかかった。
まだ十代前半の彼が聞くには、内容が情操教育によろしくない感じなのだ。
この間少し聞かせてもらった物なんて、愛するゆえに相手に火をつけて焼き殺すとか、そんな恐ろしげな歌詞だった。
ソーマがそんな物に影響を受ける程愚かでは無い事は、百も承知だ。それでも彼の一番身近にいる大人として、一言ぐらい言っておいた方がいい気がした。
「よぉ、今日もレトロなもん聞いてるな。音楽もイイけどさ、も少しこう聞く曲選んだ方が良いんじゃねぇか?」
「って言った俺に、お前何て言ったか覚えてるか?」
「覚えてねぇよ、6年以上も昔の事なんざ」
「『てめぇの頭の中の方が、よっぽどレトロだ』」
「…ぶ、」
「笑うな!本気で傷ついたんだぞ、あの時!」
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リンドウ氏に限って、そんな事言ったりはしなそうですが。
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07. 携帯電話
「携帯電話ってのはあんまり好きじゃねぇ。仕事だから仕方なく持つけど」
「何で?」
「常に見張られてる気がする」
「あーお前野良猫っぽいもんな。首輪は嫌いそう」
「のらねこ?」
「こん位の、にゃーんと鳴く可愛い生き物だ」
「にゃーん?」
「………」
「な、なんだ?」
「もう一回」
「は?」
「もっかいにゃーんて鳴いてみ?」
「……やだ」
「なんで?今鳴いたのに」
「鳴いてない。お前の言葉を繰り返しただけだ。それに今のお前の表情が、なんかやだ」
「ちぇ、ケチ」
「それよりお前の方こそ、携帯電話なんて嫌いそうな感じだけどな」
「ん?そっか?」
「野生っぽいから」
「……ワイルドだって褒め言葉として受け取っておく。まぁ、俺もあんま好きじゃねぇかな。お前と同じ理由で」
「だろうな」
「いっそ、今ここで二人で、携帯電話壊して逃げるか?」
「逃げるって、どこに?」
「二人だけの世界に」
「現実味ねぇ。それに、携帯電話壊したって、腕輪ですぐに見つかるぜ」
「バーカ。俺にはもうついてねぇよ。お前だって…外せるんだろ?」
「……」
「……」
「……」
「……冗談だ」
「……リン、」
「って、事にしといてやる。今はな」
「っ!お前、」
「さーて、帰ろうぜ。今ケータイで、ヘリ呼ぶから」
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08. 境界
リンドウに触れられると、体中に熱がこもった。それは全身を満たし、どんどんと温度を上げ、リンドウを体内に迎え入れた時にピークに達する。
頭の中が沸騰するのではないかと、回転が遅くなった思考で心配になった。
何より熱いのは、彼を迎え入れている場所。
本来他者を受け入れるように出来ていない体は、だが彼によって受け入れる事を覚えた。
それによって得る快楽も。
「ソーマ……イイか?」
耳元で囁かれる。
言葉の意味もつかめずただ首を振った。
頭が働かず、リンドウの囁く言葉の意味も掴めない。
ただ堕ちる…融ける。
己を翻弄する体にしがみ付きながら、二人の境界線が融けて消えて、このまま一つになれたらと…
そんな事を、夢想した。
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09. 冷たい手
アラガミ化した手は、ひやりと冷たい。アラガミには血流がないのが理由だろうか。硬く尖り冷たいその手に触れられる度、ソーマの胸には何ともいえない感情が渦巻く。
戻ってきてくれたと言う喜び。
彼の居なかった時間に対する切なさ。
彼を取り戻してくれた新型への感謝。
そして。
「どうした?ソーマ」
思考に沈みかけたソーマを、リンドウが心配そうな声で引き戻す。慌てて首を振り、ソーマはリンドウの胸に顔をうずめて表情を隠した。
言いたくない。知られたくない。……知られてはいけない。
こんな、醜い感情は。
感謝だけを感じられたら、良かったのに。
彼を救う事が出来た新型に、そこまで彼の心に入り込めた彼女に、嫉妬するなんて。
己の心の狭さと醜さを、突きつけられる気がする。
「ソーマ、どうしたんだ?」
問わないで欲しくて腕を伸ばし、自らの口で彼の口を塞ぐ。
リンドウは少し驚いたようだったけれど、すぐに深くソーマを貪りはじめた。
頬に硬く冷たい手を感じながら、ソーマは目を閉じる。
リンドウの与えてくれる快楽に、今は溺れてしまいたかった。
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10. ドクター
「おら、見せてみろ」
言って強引にソーマの腕を取る。彼はどんなに怪我を負っても、医者に見せるのを嫌がった。痛みは感じるくせに、どうせ明日には治るからとその痛みも全部自分一人で抱え込んで。
以前、事情の知らない医者がソーマの治りの速さに気味の悪そうな表情をしたり、研究対象のように扱ったらしい。唯でさえ幼い頃にラボを住処としていた彼は、白衣と言うだけで嫌悪感を持つと言うのに。
そんな訳で医者嫌いのソーマを、すぐに治ると言われたからって、放っておけるリンドウではなかった。
彼の任務はリーダー権限で閲覧できるので、きつそうな任務や経験の浅い者と同行した任務はチェックを入れて、任務終了後時間の空いたときに訪ねる事にしたのだ。
最初は訝しみ警戒したソーマも、最近ではようやく嫌な顔をしつつもリンドウには怪我を見せる。
野生動物を懐かせたような達成感があった事は、流石にソーマには言えないが。
「お前も、暇だな」
肩にあった傷を手当てされ、溜め息を吐くソーマにリンドウは笑う。
「別に暇じゃねーよ。管理職の仕事量をなめんな」
「じゃあ止めろよ、こんな時間の無駄な事」
「無駄なんて思ってねーからやってるんだろ。俺は、気に入ってんだよ」
リンドウの言葉に、理解できないと言うようにソーマが小さく首をかしげた。
「何を?」
「お前の専用ドクターって立場をな」
だからそれを、取り上げようとするな。
顔を覗き込んでそう囁けば、ソーマは目を見開きうろたえて。
「専用ドクターとか、そんなの、認めてねぇ」
視線を逸らしながらそんな事を言うソーマの可愛さに、リンドウは笑うとその額へ唇を押し当てた。