とにかく甘いリンソマが書きたかったんです。甘いだけならいつもと変わらないんじゃ…なんて突っ込みは聞こえません。
「またか、てめぇは」
「んー。ちょっと二・三日他支部の協力に行く事になってさ。だから、ソーマの補充をさせてくれよ」
いつもの会話を厭きもせずに繰り返して、ソーマは溜め息を吐いて体から力を抜いた。
数日かかる任務でアナグラを離れなくてはいけない時、任務前と任務後にリンドウはこうやってソーマの部屋を訪れ、ソーマを抱きしめるのが常だ。出かけるのがリンドウであれソーマであれ変わらない。数日の別離の為に、毎回行われる儀式のようだ。
『それ』は抱きしめるだけの時もあれば、口付けやその先まで行われる事もある。だが共通なのはこの抱擁。ベッドやソファに座って足の間にソーマを挟みこみ、最低三十分…長くて数時間きつく抱きしめ続ける。
彼曰く『ソーマの補充』らしいが、ソーマにはその感覚がわからない。
だが最初に『補充』された時にそう言えば、ひどく寂しそうな表情で「お前にもいずれわかる」と言われてしまったので、以来何も言えずにいた。
それから幾度もこの『補充』は行われたが、相変わらずソーマにはわからない。悲しませたくは無いからリンドウには告げないし、拒む事もしなかったけれど。
リンドウの腕が緩む。ようやく本日の『補充』は終わりらしい。そう思った所でリンドウの手に顔を掴まれ、軽く捻って上を向かされた。
覗き込んでくる澄んだ緑の目。
「相変わらず…わからないって顔だな」
リンドウの困ったような表情に、やはり内心を読まれていたのかと胸が痛んだ。
わかりたいとは、思う。だけどどうしても理解できないのだ。
それが表情に出ていたのだろう。リンドウは少し考えるそぶりを見せ、それから問いかけて来た。
「ソーマはさ、俺がいない時間が寂しいとは思わないか?」
恥ずかしくはあったけれど、照れ隠しに意地になってリンドウを悲しませるのは本意ではない。だからソーマは素直に、首を横に振った。
「寂しくない訳…ねぇだろ。だけど、俺はお前とは違う」
「違う?」
ソーマは何と言って良いか迷い、結局そのままを口にする事にする。口下手なのは自覚している為、下手に言い繕うよりは良いだろうと判断しての事だ。
「俺には…零か百しかない」
「…へ?」
「だから、零か百、だ。お前がいればそれは百だし、いなければ零になる。お前のように百ある時に20とか30とか貯める事は出来ないし、こんな風にした所で一人の時は結局ひと……」
一人なのだと言おうとして、再び抱きしめられた事で止まる。
まだ足りなかったのだろうかと見上げれば、リンドウはソーマの肩へ額を押し当てた。
「リンドウ?」
「いや、ゴメン、ちょっと待って」
「何だ?」
意味が分からないけれど、何だか抱きしめる腕が少し震えている気がして拒めない。
「…あーやべぇ、なんか凄い幸せ」
「は?」
「あのな。俺もさ、別にソーマが居なくても平気になるって訳じゃないんだぜ?こうやって抱きしめて補充しても」
「?」
リンドウはようやく顔を上げ、先程の言葉通り幸せそうに微笑んだ。
「離れる苦しさとか、離れていた寂しさとか、それを埋める為に抱きしめるんだ。抱きしめたからって、俺だってお前が居ない時間が平気な訳じゃない」
思わず目を見開けば、優しくキスをされる。
「でも、ソーマがそんな風に…考えていてくれたんなてなぁ」
『今回はハグだけのつもりだったけど、嬉しすぎて止まんない』なんて独り言のような呟きが聞こえると同時に、ソーマはそのままベッドへと押し倒された。